BUZZ RICKSON’S WILLIAM GIBSON COLLECTION ~ LINE CREWMAN G-1 JACKETS & VEST (MOD.) REVERSIBLE / BLACK
地上の翼たちが遺した美学
滑走路に陽炎が揺れていた。エンジンの熱とオイルの匂い、空気を裂くジェットの轟音。その喧噪の中で、誰よりも冷静に、機体を正確に導く者たちがいた。戦闘機を操るパイロットの影で、無数の整備員や誘導員たち、通称ライン・クルーマンたちが、地上の“翼”として汗を流していた。
彼らの身を包んでいたのは、オレンジとブラックのダイヤ柄。1950年代、アメリカ空軍が採用した視認性の高いそのジャケットは、遠くからでも瞬時に仲間を識別できるように設計されていた。だがその模様には、もっと深い意味があったのかもしれない。それは、危険と隣り合わせの現場で生きる者たちの“覚悟”を示す旗印のようにも見える。
Buzz Rickson’s が手がけるWILLIAM GIBSON COLLECTION からリリースされたモノトーン・バージョンは、その時代の記憶を静かに現代へ呼び戻す。
オリジナルはオレンジとブラックのダイヤ柄、滑走路で瞬時に視認できるよう設計された、現場のシンボルカラーだった。それをあえて黒一色で再構築したこのモデルは、喧噪の中に潜む静けさのような、もうひとつの“現実”を映している。
戦闘機を駐機場で停止位置まで誘導するラインクルーマン。このシリーズは米空軍が1950年代初頭に採用したラインクルーマンのモノトーンバージョンである。黒を基調としたライン・クルーマンジャケットとリバーシブルベスト。ジャケットは袖にシガーポケットしかないが、ベストはリバーシブルで着用が可能なバズリクソンズのオリジナルスタイルだ。ダイア柄サイドはハンドウォーマーのポケットが付き、ブラック面にもパッチポケットを設置して機能性も確保している優れもの。どちらもジッパーは当時と同じくCoats & Clark 製の No.10 リバーシブル。大きなスライダーは、グローブを外さずに掴めるための設計。細部に宿るのは、実戦という日常を生き抜いた男たちのリアリズムだ。
今の僕は、ジャケットの上にベストを裏返して重ねるのが好きだ。ポケットのないジャケットに、ベストの黒面を重ねると、無骨さの中にさりげないコントラストが生まれる。ちらりと覗く裏地のダイヤ柄が、控えめなアクセントとなり、柄同士でもアンサンブルとして楽しめる。
そしてもうひとつの物語。ウィリアム・ギブソン。彼の小説『パターン・レコグニション』に登場する「Buzz Rickson’s Black MA-1」は、文字どおり、フィクションから現実へと飛び出したジャケットだ。軍規格に基づいた素材をすべてブラックで再構築したその一着は、素材ごとの染まり方の違いが微妙な陰影を生み出し、まるで時代そのものの深さを写しているようだ。
セージグリーンの空を飛んだ時代から、ブラックの夜を歩く現代へ。完璧でない色合いの重なりこそ、人の生き方のようで美しい。Buzz Rickson’s の服には、そんな「不均一のリアル」が息づいている。
A-2が英雄たちの象徴だとしたら、LINE CREWMANは名もなき現場の魂を映すユニフォームだ。その美学を纏うことは、過去を懐かしむことではなく、自分の“働く姿勢”を選び直すことなのかもしれない。
今日もまた、袖を通すたびに思う。
服は記憶を運ぶ。
そして、本物の服だけが、沈黙のままに語り続ける。
そんな力を、この一着は持っている。







