My Thom Browne Collection ~ My Archive
2000年代初頭、まだThom Browneの名を知る人は限られていた。私が初めてその存在を目にしたのは2003年の夏。パリのcolette、そしてロサンゼルスのFred Segalに並んでいたのは、シンプルなオックスフォードのボタンダウンシャツだけだった。
翌2004年、ニューヨークへ渡った際に衝撃を受ける。トライベッカの街角で見かけたのは、丈の異様に短いパンツに極太のダブル幅、裸足にAldenを合わせたピチピチのスタイル。
まるで石田純一をNY流に解釈したかのような強烈な出で立ち。あのスタイルこそ、Thom Browneの初期を象徴する姿だった。
当時、同エリアにはNepenthesのNYオフィスやNUMBER (N)INEの店舗もあり、師匠を通じてそうした界隈の情報が自然と入ってきた。Bergdorf Goodmanでも展開していると聞き、足を運んだのが深みにハマるきっかけだ。さらにトライベッカの本店にも足を伸ばす。だが、あまりに高額で手が出ない。挑戦したのは師匠や先輩方だった。
2005年頃にはDavid Bowieが着用して話題となり、ブランドは一気に注目を集める。私は遅れを取りつつも、2006年、念願の1着目を購入。雑誌編集者やセレクトショップのバイヤーからも褒められたが、財布はすっからかんになった。だが、それでも「買ってよかった」と思える一着だった。
やがて日本の芸能界でも、長瀬智也氏や香取慎吾氏が雑誌で着用し、国内でも認知度が広がっていく。私はヴィンテージデニムを手放し、資金を作ってさらにコレクションを増やしていった。
2007年には「ブラックフリース バイ ブルックスブラザーズ」が始動。Brooks Brothersの製作でThom Browneらしい世界観を表現した新ラインは、価格的にも手が届きやすく歓迎すべき存在だった。ただし、サイズ感が異なるため、やはり本家Thom Browneに軍配が上がった。
2009年、日本でのThom Browne展開をクロスカンパニーが担うことになり、国内生産の流れを予感した私は、次第に熱が冷めていった。とはいえ手に入れたスーツは「戦闘服」として着続け、共に時間を重ねていく。
転機は2018年。ERMENEGILDO ZEGNA GROUPが買収に乗り出したニュースをきっかけに、再び購入意欲が蘇る。スーツ文化に触れ続けてきた私にとって、Thom Browneは単なるブランドではない。叔父がテーラーであったり、父や兄がスーツを愛用してきたりと、身近な存在だったこともある。ArmaniやZegna、Kiton、Brioni、Etroなども試したが、最終的にはアメリカントラッドに強いバックグラウンドを持つ私の職場の環境もあって、Brooks BrothersやPaul Stuart、そしてThom Browneへと落ち着いていった。
2014年以降は海外へ行く機会も減った。それでも、激動のビジネス期を共に戦い抜いたThom Browneのスーツは、私にとってただの衣服ではなく「人生のアーカイブ」そのもの。今も大切に手元に残し、戦闘服として袖を通している。


