TOKYO 2026 ~ 堀内果実園
奈良・吉野の山あいで、明治36年の開墾から始まった堀内果実園。
一世紀以上にわたり果樹だけに向き合い続け、現在は6代目が舵を取る。代々受け継がれてきたのは、単に果物を育てる技術ではなく、「旬のピークを見極める感覚」だという。気候、土壌、標高差。自然条件の変化を肌で読みながら、その年もっとも良いタイミングで実る果実を世に送り出す。
主力は柿や梅、柑橘類などだが、ここ数年は生果の出荷だけにとどまらない。ドライフルーツやコンフィチュール、シロップといった加工品の開発・販売にも力を入れており、「旬を保存する」技術がブランドのもう一つの軸になっている。果実の甘みや酸味を余計な加工で覆い隠すのではなく、あくまで素材の個性を際立たせる設計。いわば農家発の“フルーツプロダクト”だ。
その世界観を都市部で体感できるのが、東京・押上、東京スカイツリーの商業施設内にある直営店だ。堀内果実園の名前を掲げたこの店舗は、平日でも行列ができるほどの人気。観光客だけでなく、近隣の感度の高い層がリピーターとして通う。
理由は明確で、ここでは「農園の旬」がそのまま提供されるからだ。果実の状態に合わせてメニューが変わり、同じメニュー名でも季節ごとに味わいが違う。中でも夏の看板がかき氷。シロップはもちろん果実由来で、香料的な甘さではなく、フルーツ本来の立体的な風味が前面に出る。氷の削り方も軽く、口に入れた瞬間に溶けて果実の香りだけが残る設計だ。
都市で消費されるフルーツの多くは、流通と保存を前提に規格化されている。しかしこの店の提供は、農園の時間軸に合わせて変動する。つまり「その瞬間に最も美味い状態」を都市に持ち込む試みとも言える。
農家が一次生産だけでなく、加工・販売・直営店まで一貫して行う流れは近年増えているが、堀内果実園の場合は“老舗の蓄積”と“現代的な編集感覚”のバランスが独特だ。伝統を守るというより、果実という素材を軸にして100年以上アップデートし続けてきた結果が、現在の形なのだろう。
夏の盛り、強い日差しのなかで列に並び、ひと口目のかき氷で体温がすっと下がる瞬間。それは単なる涼ではなく、山の農園と都市の距離が一気に縮まる感覚でもある。旬を食べるとは、時間を食べること。そんな当たり前のことを思い出させてくれる一杯だ。


