時代を超えて愛される北欧デザイン – アルネ・ヤコブセンとステルトン「シリンダライン」
Stelton Cylinda-Line ~ Revolving Ashtray Design by Arne Jacobsen
デザインには、流行とともに消えていくものと、半世紀を経てもなお新鮮さを失わないものがある。その代表格が、「デンマークデザインの父」と称される Arne Jacobsen(アルネ・ヤコブセン)が1967年にデザインした、ステルトンの「シリンダライン」である。無駄を一切削ぎ落とした円筒形のフォルムは、機能美という言葉をそのまま形にしたような存在だ。発売から50年以上が経過した現在でも、そのデザインは色褪せることなく、ステルトンのデザインDNAの中心として受け継がれている。
私がこの灰皿と出会ったのは、2000年頃に初めて訪れたデンマークだった。宿泊した Radisson Collection Royal Hotel(旧Royal Hotel Copenhagen)や、Copenhagen Central Station、街中の施設やトイレなど、ごく自然にこの灰皿が使われていたことを今でも鮮明に覚えている。観光客向けというよりも、デザインが生活の中に溶け込んでいる。その光景こそが、デンマークという国の豊かさを象徴しているように感じた。
そして街の中心にあった Illums Bolighus で、この灰皿を購入した。以来20年以上経った現在でも、コーヒーテーブルやスワンチェア、エッグチェアとともに、私の生活空間で現役として使い続けている。
この灰皿は、一見すると極めてシンプルな円筒形だが、その構造は非常によく考えられている。上部の球状トレーを軽く回転させるだけで吸い殻が内部へ落ちる仕組みになっており、灰皿としての機能性と、インテリアとしての美しさを高い次元で両立している。さらに球状のトレーは回転しても周囲の空気をほとんど動かさないため、灰が舞い散りにくいという実用性まで備えている。派手な装飾や複雑な機構ではなく、「本当に必要な機能だけを美しくまとめる」。これこそが北欧デザインの本質なのだと思う。
アルネ・ヤコブセン(1902〜1971)は、建築家としてだけでなく、家具や照明、カトラリーに至るまで、空間全体を一つの作品として設計したデザイナーだった。彼は建築だけをデザインするのではなく、その建物に置かれる椅子や照明、食器に至るまで一貫した世界観で設計したことで知られている。代表作であるスワンチェアやエッグチェアも、本来は建築プロジェクトのために生まれた家具であり、シリンダラインも同様に、「生活の中にある美しさ」を追求した作品の一つである。1967年にはデンマーク工業デザイン学会のID賞、翌1968年には米国インテリアデザイナー協会による国際デザイン賞を受賞し、その完成度は世界的にも高く評価された。
ステルトンの歴史もまた興味深い。1960年、友人同士だったステラン(Stellan)とカートン(Carton)が、それぞれの名前を組み合わせて「Stelton」を設立。コペンハーゲン郊外の小さなステンレス工場と提携し、ソースポットの販売からスタートした。その後、アルネ・ヤコブセンによるシリンダラインによって一躍世界的ブランドへと成長し、1977年には Erik Magnussen が手掛けた「バキュームジャグ」が北欧デザインを代表するアイコンとなった。
現在では、Museum of Modern Art(MoMA)をはじめ、世界中の美術館や博物館に作品が収蔵され、近年も若手デザイナーとの協業を積極的に進めながら、新しい時代の北欧デザインを発信し続けている。
私はこれまで欧米を中心にさまざまな国を訪れてきたが、今なお「住んでみたい」と思う場所は北欧である。街並み、建築、家具、照明、自然、そして人々の暮らし方。そのすべてに、過度な主張ではなく、長く付き合うことを前提とした心地よさがある。
北欧家具は、私にとって最も好きなデザインテイストであり、現在愛用しているヤコブセンの作品に加え、いつかは Poul Kjærholm の家具も迎え入れたいと思っている。時代が変わっても、本当に優れたデザインは古くならない。20年以上使い続けているこの灰皿を見るたびに、デザインとは「新しいものを作ること」ではなく、「長く愛され続けるものを生み出すこと」なのだと、改めて感じている。


