MaintenanceのためにAudemars Piguet Boutique Ginzaへ

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MaintenanceのためにAudemars Piguet Boutique Ginzaへ

時を継ぐということ ~ 父のオーデマ ピゲと、150年続く“永久修理”の思想

スイス・ジュウ渓谷の小さな村、ル・ブラッシュ。厳しい冬に閉ざされるこの地では、古くから人々が長い冬の室内作業として時計づくりの技術を磨いてきた。1875年、この地で時計師のジュール=ルイ・オーデマとエドワール=オーギュスト・ピゲによって創業されたのが、Audemars Piguetである。

創業から150年。オーデマ ピゲは、一度も巨大資本グループに属することなく、今なお創業家による独立経営を守り続けている稀有なマニュファクチュールだ。

時計業界では、しばしばPatek Philippe、Vacheron Constantin、そしてオーデマ ピゲを並べ、“世界三大時計ブランド”と呼ぶ。

その理由は単なる価格ではない。超薄型機構、永久カレンダー、ミニッツリピーター、トゥールビヨン。機械式時計の最高峰と呼ばれる複雑機構を、何世代にも渡り継承し続けてきた技術力にある。

1921年には、厚さわずか約1.3mmという当時世界最薄クラスの懐中時計ムーブメントを開発。そして1972年、時計史を変える転機が訪れる。伝説的デザイナー、Gérald Gentaが手掛けた「ロイヤル オーク」の誕生である。ステンレススティール製でありながら、高級時計として成立させるという前代未聞の発想。八角形ベゼル、ビスを露出させた工業的デザイン、ケースと一体化したブレスレット。それまで“金無垢こそ高級”だった時計業界の常識を、完全に覆した。

現在のラグジュアリー・スポーツウォッチという市場は、ある意味、このロイヤル オークから始まったと言っても過言ではない。

だが今回、私が改めて感じたのは、ブランドの知名度でも資産価値でもない。「時代を越えて修理し続ける」という思想そのものだった。

父が長年愛用してきた一本のオーデマ ピゲ。購入は1980年代のParis。価格は当時の為替レートで600万後半だったそうだ。

非常に薄いケースに、機械式の手巻きムーブメント。ケース外周から文字盤周辺にかけて、ダイヤモンドが贅沢に散りばめられている。正確なモデル名は分からない。しかし、当時のオーデマ ピゲ特有の“静かな狂気”のような美意識を感じる時計だ。派手なのに品がある。宝飾時計でありながら、成金趣味には見えない。薄型ケースの奥に、当時の超絶技巧が宿っている。

父は購入以来、定期的にオーバーホールへ出してきた。今年84歳になる父に代わり、今回初めて私がメンテナンス窓口へ持ち込むことになった。オーデマ ピゲの正規メンテナンスは、一般的な時計修理とは少し性格が違う。同社では「コンプリートメンテナンスサービス」という形で対応され、単なる分解掃除では終わらない。

機械内部の点検だけでなく

  • 摩耗パーツ交換
  • 精度調整
  • 防水検査
  • ケースやブレスレットの調整
  • 外装の研磨
  • 歪み修正

など、時計全体を再生するような工程が組み込まれている。

当然ながら、料金は高額になる。

理由は明確だ。

  • 純正パーツしか使わない
  • 専門技術者による作業
  • 専用工具と設備
  • ブランド独自の品質基準
  • 長期アフターサービス

そして何より、オーデマ ピゲは「永久修理」を掲げている。

これは単なる宣伝文句ではない。機械式モデルについては、過去モデルの技術資料とノウハウを保持し続け、仮にパーツが存在しなくても、新たに制作して修復対応を行うという思想だ。つまり、時計を“消耗品”として扱っていない。作って終わりではなく、「未来の世代が修理し続ける前提」で製造されているのである。

今回持ち込んだ父の時計も、製造から既に25年以上経過しているため、日本国内ではなく、本国スイス送りになる可能性が高いとの説明だった。納期は最低でも2ヶ月。状態次第では半年以上。費用も最低25万円前後から。部品交換やケース修正、ブレスレット調整などが加われば、30万円を超える可能性もあるという。普通に考えれば、“時計修理”としては異常な金額だが、Patek Philippeなども似ている価格帯であるし、クロノグラフなどの複雑系の機械は高いのが普通である。

だが不思議と、高いとは感じなかった。それは、かなり古いモデルだからだ。むしろ、40年以上前の機械を、いまだに責任を持って修復し続ける体制そのものに、現代では希少な価値を感じた。

大量生産・大量消費が前提となった時代の中で、「壊れたら買い替える」のではなく、「次の世代へ受け渡すために直す」という思想。それは単なる高級品ではなく、“文化”に近い。

父がこの時計を着けていた時間。仕事をしていた時間。家族を支えていた時間。その全てを、この小さな機械は静かに刻み続けてきた。

本人の希望で孫に継承したいそうだが、オーデマ ピゲの本当の価値とは、単なる資産価値やステータスではなく、“人の時間そのものを継承する器”であることなのかもしれない。

 

 

 

 

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