GUY / You Can Call Me Crazy(1988)
1988年、Teddy Rileyが率いる新進気鋭のグループGUYが放ったデビューアルバム『GUY』。 この作品は、後に“NEW JACK SWING”と呼ばれるサウンドの原型を形作った金字塔とも言える歴史的名盤です。 その中に収録された一曲、「You Can Call Me Crazy」。 この曲はシングルカットされなかったものの、ファンの間では“隠れた名曲”として語り継がれています。 そして何よりも注目すべきは、この曲が唯一、Timmy Gatlingがリードボーカルを務めた楽曲であるということ。
もともとは、Al B. Sure!が歌う予定だったみたいですが、制作者のTeddyのグループのメンバーでもあり、同じく制作者だったTimmy Gatlingがリードボーカルを務めてリリースされた。New Jack Swing誕生の熱狂と葛藤が刻まれた一曲である。
アルバム『GUY』では、8曲のソングライティングに関わったTimmy Gatling。 グループの創成期を支えた重要メンバーでありながら、アルバムリリース直後にGUYを脱退します。 そのため、このアルバムジャケットに写るTeddy Riley、Aaron Hall、Timmy Gatlingという初期メンバー3人での活動は、まさに“最初で最後”の瞬間となりました。 Timmyの歌声は、R&Bとしての深みと若々しさが同居し、Teddy Rileyのプロダクションと絶妙に融合。 「You Can Call Me Crazy」は、彼の才能と存在感がしっかり刻まれた貴重な証拠でもあります。 しかし、その後“NEW JACK SWINGの生みの親”という称号はTeddy Rileyひとりの名に集まり、Timmyの功績は徐々に埋もれていきます。 これは、音楽史の中で何度も繰り返されてきた“光と影の構図”の一つであり、彼にとっても複雑な思いがあったことでしょう。
この楽曲には、もう一つの驚きがあります。 実は「You Can Call Me Crazy」の中には、Al B. Sure!のボーカルがそのまま残っているのです。 全編がTimmyの歌声と思われがちですが、実際にはパートによってAl B. Sure!のボーカルが重なっており、 これは当時のTeddy RileyとAl B. Sure!の密接な関係性を象徴する事実です。 つまりこの曲は、GUY名義ながらも“裏コラボレーション”の側面を持ち、まさにNew Jack Swingカルチャーが交差した現場の空気が詰まっているのです。
Timmyの脱退後、GUYにはAaron Hallの弟、Damion Hallが加入。 グループは“黄金の3人”体制を更新し、90年代へと突き進んでいきます。 一方のTimmy Gatlingは、ソロアルバムをリリースし、他アーティストのプロデュースなどでも活躍。 Teddy Rileyのような“革命児”としてのポジションこそ得られなかったものの、彼なりの形でNew Jack Swingシーンで成功を収めました。
メロウかつ洗練されたグルーヴは、まさにNew Jack Swingの原点。Timmy Gatlingのナイーブで伸びのあるボーカルは、今聴いても新鮮。背後に潜むAl B. Sure!のハーモニーを探すことで、さらに深い楽しみ方もできる。
「You Can Call Me Crazy」は、GUYの中でも最も語られにくいが、最もドラマチックな一曲かもしれません。 Timmy Gatlingという“もう一人の創始者”の息吹と、Al B. Sure!とのクロスオーバー、そしてTeddy Rileyの才能が重なり合ったこの楽曲は、 単なるR&Bでは終わらない、New Jack Swingのリアルな記録として今こそ再評価されるべきです。
